その指に触れて

「さっきの女の子はモデル?」


ちらっとキャンバスに目を移す。


かおりちゃんと呼ばれていた子が、白黒のまま今にも歩き出しそうだ。


見事なもんだよなあ。


美術に全くの無縁であるあたしは、デッサンだけで感心してしまう。


「見ればわかるでしょ?」

「それ以上の関係はないのって意味」

「え?」


草食系の顔のそいつは、一瞬黙って「ああ」とあたしの言った意味を納得したらしい。


「学校ではよく喋るけどね。それ以上はないよ。今日はたまたま学校にいたから、モデルを頼んだだけ」

「食事行こうって言われてたじゃん」

「え? いつからここにいたの?」

「一時間くらい前」

「え。全然気づかなかった」

「だろうね」

「声かけてくれればよかったのに」

「無理でしょ。集中してる人を邪魔するほどあたしバカじゃないし」

「かおりちゃんは気づいてたかな?」

「たぶんね」


あの子のあの眼はたぶん気づいていた。


教室を出るとき、かなりきつく睨まれたから。