その指に触れて

どれくらい時間が経っただろうか。


黒い棒を大きいキャンバスに滑らせて、それは人の形を成していった。


……すごい。


その筆(?)さばきに見とれていたら、あっという間にキャンバスの中に奥のモデルの人が映し出された。


「……よし、できた」


溜め息まじりの低い声が教室に響き渡って、あたしははっとした。


あたしに背中を向けている人が発した声なのだとわかるまで、少し時間を要した。


「かおりちゃん、どうもありがとう。今度ジュースでも奢るよ」

「いいわよ、そんなの。なんなら、今度そこのパスタでも食べに行きましょうよ」

「いいね。俺、一回行きたかったから」


うわ……まさかのデートのお誘いかい。


「じゃあ、夏休み明けね。私、彼氏と待ち合わせしてるから」


女の子が立ち上がり、描いていた人に笑いかけて、教室を出ていく。


まさかの浮気?


わずかに眉をひそめて出て行こうとするその女の子を見ていたら、出ていく寸前に女の子もこちらを見てきた。


……見過ぎたかな。