その指に触れて

この空気で携帯を開く音すら立ててはいけないような気がして、あたしはそばにあった椅子に座った。


デッサンが終わるまで待とうと思った。


本当はこの場であの送り主に返事をしてやろうと思ってきたのだけど、今は無理だな。


ここからだと、キャンバスに描かれている絵がよく見えた。


奥で椅子に座っている人はやはりモデルだった。


モデルの人は可愛らしい女の子だけど、それを描いている人の顔は後姿だからよく見えない。


わかることは、女の子にしたらベリーショートの真っ黒い髪で、広い背中、小顔の割には大きい黒縁メガネ。


制服はズボンだし……男だよな、完全に。