「じゃあね、遥斗。あたし、授業あるから」

「あ、万梨ちゃん」


歩きだそうとしたあたしの腕を掴む。


「何?」

「指、綺麗になったね」

「ああ。ちょっと、頑張った」

「何を?」

「指のケア。遥斗に触って欲しいからさ」

「それ、よくも堂々と言えるね。聞いた俺が恥ずかしい……」

「じゃあ、遥斗があたしを恥ずかしくしてみなさいよ」

「それは昨日ので十分……」

「あ、じゃあ、キスして。ここで」

「無理。それだけは絶対無理。こんな公衆の面前でできるの万梨ちゃんくらいだから」

「マジ? なんか嬉しい」

「褒めてないし……」


その時、遥斗があたしの耳元で小さく囁いた。


すぐに離れて、「じゃあね」と身を翻してあたしから去っていく。


あたしは遥斗の後ろ姿を眺めて、しばらく突っ立っていた。


「や、反則だって……」


さっきの倍恥ずかしくなった。


同時に、にやけてしまう自分もいて。


遥斗だから言えたやつ?


「……大好きだし」


翻弄して、翻弄される君が好き。