その指に触れて

「あ、言っとくけど」


一瞬で遥斗の顔から笑みが消える。真顔の二つの目があたしを見つめる。


この変わりよう、ある意味詐欺師だ。


「元カノのことは全く引きずってないから」

「あっそ……」

「俺は軽々しく好きなんて言えないタイプだからさ」

「悪かったね、軽々しく好きなんて言えて」


絶対あたしに対する嫌みだ。


「まあ、普通に嬉しかったけどね」

「普通って何よ」


なんか、こいつを後ろから蹴っ飛ばしてやりたい。


「万梨ちゃん、あのね」

「振るならさっさと振ってよ。あたしもうこのまま帰ってもいいから。散々焦らすとこ、変わんないよね、遥斗も」

「あのさ、万梨ちゃん。荷物まとめないでくれる? 帰る気満々じゃん」

「当たり前でしょ。あんたが焦らす時は大抵悪いことしかない」

「どっちにしろ言う気なくす……」


あたしは遥斗を無視して立ち上がる。