その指に触れて

今考えれば、ディープくらい受け入れればよかったかなとは思う。


連絡を取り合わなくなってから未練なんてないし、彼と付き合ったことを後悔しているわけでもないけど、今考えればディープくらい、と思う。


実際、二人目からはディープしてるし。


でも、あの時のあたしは、本当に嫌だったのだ。


唇を重ねるだけでなく、舌と舌を絡ませる、ということが。


普通のキスにすら存在意義を唱えていたのだから。


ブーッ、ブーッ、ブーッ。


すぐ横で、無機質なバイブ音が聞こえてきた。


体を起こす。一瞬眠ってしまったらしい。


何もわざわざ初彼のことを思い出さなくても……。


未練はない。でも、思い出したくはない記憶の一つに分類されている。


さっきからバイブ音を鳴らしているガラケーに手を伸ばした。