その指に触れて

家に帰り二階の自室に戻ると、あたしはぎゅっと唇を噛み締めた。


唇の先だけ噛んでいるので、そこに力が入って痛い。


そのまま制服を脱いで部屋着になる。


そこで限界だった。溢れた思いが涙となって後から後から頬に滑る。


「遥斗の……バカ」


こんなの、いくらなんでも残酷すぎる。


ベッドに倒れこみ、涙が布団を濡らす。目を瞑ると、さっきの遥斗の顔が見えた。


いつもの笑った顔ではなくて、無表情の、血の通っていない人形みたいな遥斗。


あの時、遥斗は何を思ったのだろう。何を感じて、あたしにあんな顔を見せたのだろう。


いや、案外何も考えていなかったのかもしれない。あんな、怖いくらいロボットみたいな顔。


恋愛対象として見てない?


じゃあ、あのキスはなんだったの? あの時見せた涙は、笑顔は、寝顔は何のために見せたの?


なら、最初から関わらないで。触らないで。あたしを傍に置かないで。