その指に触れて

「万梨ちゃん」


遥斗が急に重々しく、ゆっくりとあたしの名前を呼んだ。


「何?」

「俺さ」


あたしをじっと見つめる遥斗は、口元は綻んでいるけど目は笑っていなかった。


「部活、もうやめんだ」

「え?」

「中間テスト終わったら、勉強に専念する」

「大学受験の?」

「うん」

「……美大とかは、行かないの?」


あたしは慎重に言葉を選んだつもりだったけど、遥斗は「ははっ」と空笑いで一蹴した。


「俺の実力じゃ無理だよ。俺、どんなコンクールでも入選が精一杯。絵で食っていこうなんて思ってもないしね」

「じゃあ、何になるの?」

「とりあえず国家公務員を目指す。そのためにW大を受ける」

「国家公務員……W大……」


なんか、スケールが違う。


あたしとは見ている場所が違う。


W大は、私立大学で全国一高い偏差値を持つ大学だ。


うちの高校はそこそこ偏差値の高い進学校に入るから、毎年頭のいい人が一人か二人ほど指定校推薦で入っていることくらいは知っている。


あたしは空を眺めて呆気にとられていた。