その指に触れて

「何か用?」

「随分ツンツンだな。付き合ってた頃はツンデレで可愛かったのに」

「デレる必要がないから」

「なるほどね。好きな奴できたんだ」

「だったら何?」

「別に。言っとくけど俺、元サヤになるつもりはねえよ。何度拒否られたことか」

「あたしも戻るつもりないし。今更何よ」


早く美術室に行きたいのに。


別に怒っているわけではない。ただこいちを前にするとついこういう態度になってしまうだけ。仮にも半年前は毎日連絡を取り合っていた男なのだ。


中村晃彦(ナカムラアキヒコ)。四ヶ月前まで付き合っていた元カレだ。


人懐っこい笑顔に短くツンツンとした硬い黒髪。あまり高くはないけど、あたしより五センチは高いと言っていた身長。


好きになったのは、あたしからだった。