その指に触れて

放課後、あたしは今日もさっさと教室を出て、美術室に向かう。


不思議なんだけど、あたしが行くと必ず遥斗は既にいるんだよね。


「教室にいると落ち着かないんだ」なんて、にっこり笑って言ってたけど。


掃除とかないわけ? 頭いいから免除されてるとかそんなんじゃないよね?


そういえば、遥斗が他人の話をしてるのを聞いたことがない。


まさかの友達いないの?


たまに女々しいところを除けば、遥斗はいい子だと思う。クラスで密かに人気があるような感じ。


聞きたいけど、なんかね。今更聞きづらいというかね。 


「あれ、万梨子じゃん。久しぶり」


なんだか懐かしい声がして振り向く。


「……うわ、出た。隠れ下半身バカ」

「万梨子、公共の場でそういう発言やめなよ。俺が酷い奴みたいじゃん」

「実際そうでしょ。今更何声かけてんの。気持ち悪い」

「うわ、傷付くわー」


とか言いつつ、目の前の男は顔を綻ばせて傷ついているようには到底見えない。