「園畑美波」

急にフルネームで呼ばれて反応が遅れる。

誰もいなくなった廊下で、
よく響く優しい低音の声。

あんまり男の子との接触がなかった私には少し衝撃だった。

「…だれ?」

誰もいない廊下は、私の声もまたよく響いた。

彼の方から、声をかけてきたのに、反応されて慌てているような雰囲気が面白い。

その時、

私は高校1年生で、
彼も同じ学年で、

お互いになにも接点のない
ただの噂の人、だったのに。

夏が始まりかけたじめっとした空気の中で一気に接点を持ちはじめたんだ。



「美波」

あのじめじめした空気から彼と私は友達になった。
あの日、彼から言われたのは

園畑美波に竹内忍って人を知ってほしい

というものだった。

当然私は頭にハテナマークを何個も散らしたいたし、
彼は彼で伝わらない言葉をどう表現していいか分からず唸っていたように思うけれど。


あなたが、竹内忍くんなの?


私が控えに尋ねると大きく首をたて振っていたから

じゃあ、私たちこれで友達ね、

と笑いかけたら、

彼はとびきり驚いた顔で


うん、と頷いてくれた。