「絵里さんこそ早いね。約束は9時半て言ってたのに。まだ15分だよ。」
「早く雅巳に会いたいじゃない。」
「フフ、よく言うよ。ご主人様の晩御飯をしっかり用意してくるクセに。」
コツ…コツ…と、BOX席に歩いてくる雅巳君。
心臓が飛び出そうだ、それどころかビックリし過ぎて発作さえ出そうで怖い。
下を向いて片手で顔を抑えて、バレないように顔を隠す。
今此処に私がいるなんて彼は絶対ビックリするだろうし、
何より嫌がられそうな気がする。
確かにその時が来れば彼に連絡をして会うつもりだったが、まさかこんなに早く、そうじゃない。こんな広い街に何故会えるのか不思議でたまらない。
どこまで引力で引き寄せられているというの?嬉しいけど、目の前にいるのは喜びだけでは無い。
「今日は店に早くに上がれるんでしょ?その後は勿論空いてるわよね?」
「何度も聞かないでよ。店が終わったら絵里さんの為に予定は空けてる。その代わりご主人にバレても僕は関係ないからね。」
「それこそ何度も言わせないで頂戴。貴方との関係をバレても私は構わないと言ってるの。」
吐き気が出るような親密な関係なのは直ぐにわかるが、出来ればもう少しボリュームを下げて欲しい。
「おまたせしました。」
顔を隠しながらうつ向いていると、おばさんが私が頼んだパスタを持ってきて思わず手を膝に置いてお礼で頭を軽く下げる。
急いで食べなきゃ……。
こんな所見られたくないし、何より会話を聞きたくない。
美味しそうなトマトの酸味の匂いと、熱々なペンネの湯気が揺れる。
でも食欲は正直さっきよりも激減してしまった。



