電車に乗り、時間的にはそんなに混んでおらず少し安心して窓からの風景を楽しんだ。
人混みの苦手さは克服とまではいかないが、耳鳴りがすることも吐き気がすることは無くなった。
窓から通っていた心療内科の病院が遠くに見えた。
先生にお礼を言わないのは少しの後悔だ。あの病院には本当にお世話になった。
先生は、仕事帰りの外の匂いが好きだと言っていた。思い出したけど、私も以前は好きだったと思う。
職場を出て家路を歩く夕方の空、手を繋いだ親子や晩御飯が近いからダッシュで帰る子供たち。キラキラ輝いていた風景を、愛しい人と住む家に帰るあの道。
あの時はそこまで気付かなかったんだよね。
幸せだということを。
無くなって気付く大きな物。失ったものは大きい。かけがえのない物を取り戻すことは不可能に近い。
全てを失った気がした。
全てを失ったのに、彼に出会い、また生まれた。
愛されたいのは過去とは関係なく、彼に惹かれた理由は有りすぎて言えない。
強いて言うならば、彼の笑顔が好きかもしれない。その悲しげな瞳から少し解放されたかのようなあの口角を少し上げて笑うあの顔は、本当に好きだと思う。



