家を去る時、お父さんは悲しそうに、離婚のわけを話してくれた。

「ユウ太、実はな、ママは魔界のプリンセスなんだ。」


俺は数秒フリーズした。


冗談かな。そんな状況でもないけど。


すんごい真剣な顔してるし。


お父さんは俺の目を見てさらに続けた。


「パパは普通の人間だから、魔王は結婚を許してくれなかった。だからパパとママは手と手を取り合って逃げて来た。……」


お父さんはいったん言葉を切って、瞳を潤ませた。


「ついに見つかってしまった。でも、魔王はパパとママにはユウ太がいることを知って、魔王はパパにチャンスをくれたんだ。」


「チャンス…?…」


このどうしようもなくリアリティに溢れた物語をどう決着させる気なのかと、俺は耳をすました。


「大昔に勇者に盗まれてしまった、魔の剣を見つけることが出来たら、もう一度ママとユウ太と暮らすことを許してくれるんだそうだ。」


魔王のくせに何気いい人だな。


つか、俺は魔王の親戚だったのか。


そういった冷めた思考は向こうにおっぱらって、俺はちっちゃくてぷくぷくした手で、泣きそうなお父さんの頬をそっと包み込んだ。


「わかった。待ってる。ユウ太、パパのこと待ってる。」


「ユウ太……」


お父さんは、大粒の涙をひとつずつ、ポロリと両目から零した。


「うん、ユウ太、待ってて。パパ、頑張るからな。」


お母さんからすれば迷惑極まりない約束だったろうが、俺にとっては希望だった。

さすがに魔王うんぬんの話を信じる歳でもなかったが、もしかしたら帰って来てくれるかもしれない、淡い希望が胸にやきついた。