ゴーン。


お父さんの中で鐘が鳴った。


かくして、お父さんは、お母さんのなんにも考えてない笑顔に、勝手にノックアウトされた。


うら若き乙女であったお母さんにとっては、財布を渡しただけの青年に穴があくほど見つめられ、さらにはその駅で降りようとしてたくせに、満面の笑みでそいつが再び乗車して来たのだから、さぞや気色悪かったことだろう。


それからというもの、お父さんはお母さんにストーカーのごとく、いや、むしろ普通にストーカーとしてつきまとった。


お母さんも、はじめは山田青年の存在を認知出来ないふりをしていた。

しかし、気づかないふりして、足引っ掛けてこかしたてみたり、寝ぼけたふりして殴ってみたりしているうちに、


少しずつ惹かれていったらしい。


基本的に、俺のお母さんはアホが好きなのだ。


二人は付き合うようになり、子供が出来た。


お母さんにベタ惚れのお父さんは当然結婚を考えたが、お母さんは却下した。


お母さんと同じく教員の道を目指していたお父さんが、採用試験に合格したら、結婚する。


それが、お母さんがお父さんに出した、結婚の条件だった。


俺が四歳の時、二人は結婚した。


もっとも俺たちはずっと三人で暮らしてたから、二人が結婚してなかったなんて、俺は知らなかった。


俺たちは三人でものすごく仲の良い家族だった。


俺は今時のガキンチョにしては珍しく、素直にお母さんとお父さんが大好きだった。


俺が小4の時、二人はいきなり離婚した。

あんなに仲良くて幸せだったのに、俺はわけがわからなくて、たくさん泣いた。


ヒロ人の服は毎日、俺の涙と鼻水で汚染された。