「どうしたんだ…あいつ。」


お父さんは心配そうにつぶやいたが、それ以上ミミ子ちゃんを追いかけることはせず、俺の方を振り返った。


さっきまでの勢いが急になくなって、ためらいがちな笑顔を俺に向ける。


「久しぶりだな。ユウ太。」


「うん……」


お父さんと会うのは一年ぶりだ。


ふいにお父さんは泣きそうな顔をする。


「なぁ、どうして会ってくれなくなったんだ?」


え…どうしてだっけ。


一瞬、本気で忘れていた。


「あー、思い出した。」


キッとお父さんを睨みつける。


いきなり戦闘モードに入った俺にお父さんも反射で身構えた。


「お父さん…」


「な、なんだ、ユウ太?」


「お父さんとお母さんが別れたのって、お父さんの浮気が原因ってホント?」


お父さんはギクリと反応した。


「あ、ホントなんだ。」


俺はにっこり微笑んだ。


まぁ、本当のことだってことははじめからわかっていたけれど。


「あのな、ユウ太、浮気は本当だ。でも、わかっていて欲しいことが…」


「お父さん…」


「……ん?」


お父さんの目に不安が揺らぐ。


俺から見れば随分情けない。


それでも、その立ち姿は世の女性たちには十分すぎるほど魅力的に映るのだろう。

お父さんはかっこいい。


本当、何でお母さんと結婚したんだろうって思うくらいに。

だからこそ、許せない。


「バカ、嫌い、バカバカバカバカバカバカバカバカバカバカバカバカバ‼‼‼」


「ユ、ユウ太」


「パパのカバッ‼‼」


俺は突発的に切れると、脈略なく言い捨てて、先刻のミミ子ちゃんのように勢いよく退場した。


呆然としたお父さんと、無表情で一部始終を見ていたヒロ人を残して。