「ゴミ、以外と落ちてませんね。」


わたしは周囲の騒々しさに負けまいと声を張り上げた。


「そうだな。一応花園だからな、みんな遠慮してんだろ。」


山田も大きく声で返す。


「綿菓子いりませんかぁ~」

「綿菓子‼」


売り子の声に反応してわたしは駆け出した。

「こら、ミミ子。迷子になるだろうが。」

山田があわててわたしの衿を掴む。


「今、先生、わたしのことミミ子って呼んだ?」


わたしは驚いて山田を見上げた。

「あー、悪いな。クラスのやつらみんなそう言ってるから。さ、行くぞ。見回りだ。」


ずんずん歩きだした山田の後ろで、わたしは両手でホッペをおさえた。


どうしよ、にまにまが止まらない。


変な目で見られるのを分かっているのに、どうしてもとめられない。

心が浮き立ってしょうがない。


「わぁっ」


前を見ずに歩いていると、突然立ち止まった山田の背中にぶつかった。


「い、いきなり立ち止まるなんて、なんで……」

「ユウ太」

山田の唇から漏れた名前に、わたしの背筋がこおる。

「ユウ太っ」

山田は叫んで、いきなり走り出した。


まわりの人にぶつかるのも気にとめず、ひたすら前に進んで行く。


「せ、先生っ、待って」


おいていかれたことで、わたしは早くも泣きそうになっていた。


それでも懸命に山田の後を追う。


「ユウ太」


山田は多くの人に注目される中で、一人の少年を呼び止めた。


少年が振り返る。


山田は少年に駆け寄ると、ぎゅっと抱きしめた。


「パパ……お父さん」


ユウ太くんの呆然とした声が、微かに聞こえた。