HRが終わると、いつになく思いつめた顔をしたアユ芽ちゃんがわたしに言った。

「ミミ子、わたし久しぶりに山田先生のこと、刺したくなっちゃった。」


つうことは前にもあるのね。


そんなことを思いながらも妙に気分の沈んでいたわたしは気のない返事をした。


「いいんじゃない?」


沈黙が数秒おりてくる。


「ミミ子‼」


「はいいっ‼⁉」


突然のアユ芽ちゃんの叫びにわたしはひっくり返りそうになった。


アユ芽ちゃんが叫ぶのなんていつものことだから耐性は持っているはずなのだが、今日に限って役に立たない。


アユ芽ちゃんはわたしに詰め寄ると、ふざけてるのか真剣なのかイマイチわからん鼻の膨らんだ顔で言った。


「ミミ子、山田はたしかに腹立つよ。絶対自分イケメンとか思ってるし厚かましいし、つうかわたしのミミ子に馴れ馴れしいんだよ、ハゲろよって感じだけど、刺したら、ミミ子の心に傷が残るよ。」


いや、良いこと言ってるみたいだけど、刺す言うたの君だし。
とか

最後らへんの文句アユ芽ちゃんの私情だろ。
とか


つか、その顔普通に面白いな。


とかさまざまなツッコミが頭をかすめたけれど、とりあえず聞いてみた。


「なんで、わたしが山田を刺すと思うの?」


「え?うーん、それはですね…」


歯切れ悪くウニョウニョ言ってるアユ芽ちゃんに、わたしは天使の笑みを向けた。

「そんなことより、土曜楽しみだね。」


アユ芽ちゃんは悲しそうな目をしたけれど、

「そうだね。」


と笑い返した。


なんか気つかわれてるな、とか思ってると、ものの二秒で気遣うような笑顔が変態スマイルにとって変わられていた。


「もち肌くん…うへへへへ」


ううっ


背中におぞけが走った。


ちびっ子少年はうへへへへというおぞましい音声ごとアユ芽ちゃんを受け入れられるんだろうか。


ああ、哀れ。