「アユ芽ちゃん」

「ん?」

「生き物は大切にしようね」

「はーい」

…ホンマに分かっとるんか。


「おいこら、お前らさっさと席に着け。」



教卓の方で神聖な女子高には似つかわしくない下品な声が聞こえた。


「きゃあ、山田せんせぇいっ」


「いやん、今日もイケメンだわ。」


いやん、今日もきしょいわ。


「ほら、喋ってないで席つけ。吊るすぞ
無視するぞ」


ご自分の首でどうぞ。



いや、無視してくれるんなら、生存されてても構いません。


「おお、今日もすごい目で睨んでくるな、ちびっこ」


なんとお下劣なっ。


ちびっこ扱いされたわたしとしては今すぐ顔面に蹴りをお見舞いしてやりたいのだが、生憎そんなことをしたら、わたしの顔面が全校生徒の蹴りの受け皿と化っしてしまうこと間違いない。


それもこれもこいつの面がやたらいいせいだ。


かわいい女子高生たちに


「山田先生ってどんな奴ですか。」


と聞いたら、


切れ長の目が綺麗で~


顎がしゅっとなってて~


鼻筋が美しくて~


眉がキリッとなってて~


つか若いし~


~~~以下略。


顔の特徴しか返ってこない。(5番目のは受け流して下さい。)


「出席とるぞ。青木~上田~」


ええい っ 、語尾を伸ばすな語尾おっ


「中田~」


「ハイッ」


「浜西~」


「ふぁいっ」


「チビスケ~」


「………」


このクラスにチビスケなどと命名された御仁はおられません。


まったく顔が良いだけのバカである。


「なんだ、自分が呼ばれたことも分からないのか。バカだなぁ、ミミッ子は。」


「ミミ子ですっ」


「おっ、元気なお返事ありがとな〜」


く、くそ、無視を貫こうと人しれず誓っていたのに。


このわたしにのみ、やたらちょっかいかけてくるこいつがわたしは心底嫌いである。


高校を出たら縁の無いどうでもいい輩だと自分に言い聞かせて、日々やり過ごしている。


「うー、いっつもミミ子ばっかぁ」


「羨ましいぞ、この野郎っ」


最近受け流すだけではすまない、身の危険を感じないではないが。




この時は思っても見なかった。



我らがアホ担任とあんな接点ができてしまうなんて。