それから数年後、母が病気で亡くなったと聞いた。


何の感慨もなかった。


ただ、本当の幸せを見つけに行った母の、短い人生を哀れに思った。



父は母の分もわたしを大切に育ててくれた。


だから、わたしは母のように、寂しく笑ったりなどしない。


わたしは幸せだ。


父はたまに過保護がすぎるけれど。


小中学と普通の公立に通っていたのに、なぜか高校は、


「男と同じ学校などありえん‼」


とどこぞの頑固おやじのようなことを言い出して、わたしは無理やりお嬢様学校を受けさせられた。


学費がアホみたいに高いのが、家計を気にする良い子なわたしの胸を痛めるが、家から近いし、設備もいいし、おおむね満足している。


しかし……


「山田が腹立つよ~」


眠りかけている父を起こさないように、小さくつぶやいた。


一文字ずつに、今日体内に溜めた毒を込める。


(戸波先生に怒られたくせに、ちびっ子って呼ぶなって言われたからって、チビスケって、チビスケって…スケって、助ってなんだよ‼)




それにあれは一体なんだ。


あの思いつめたような、どこかせつなげな、戸波先生を見る山田の目。


(なんで……あんな目するの。)



わたしを見る目とは全然違う。


生徒を見つめる優しい目じゃない。




…愛おしげな眼差し。



自分の部屋に飛び込み、そのままベッドにダイブした。


「…っ、う…ひっく」





涙が溢れてとまらなかった。