「今日は楽しかったか?」


お父さんはだらしなく寝転びながらわたしに尋ねた。


「うん、楽しかったよ。」


「そうか。」


お父さんは嬉しそうに笑った。


我が家で毎日繰り返される会話だ。


わたしの家は父子家庭だ。

わたしが五歳の時に母は家を出て行った。父ではない、他の男の人を愛していたから。

あの日を今でも忘れない。


何処かに出かけるの?と聞いた幼いわたしに母は、寂しそうに言った。


『ママは幸せになりに行くの。」


そっかぁ、いってらっしゃい。


母が二度と帰ってこないなんて思いもしないわたしは無邪気に母を送った。