「ねー、アユ芽ちゃん。」

「なぁに、ミミ子。」


アユ芽ちゃんはわたしのホッペを熱心に突っついている。

2回/秒くらいのペースがいっこうにくずれない。妙なことで感心してしまう。

しかし、アユ芽ちゃんからしたらウニウニって感じなんだろうけど、わたしからしたらぐえぐえって感じなんでいい加減にやめてもらわないと困る。

突っつかれてる右の方だけ老化が早まりそうだ。

「あのね、アユ芽ちゃん。」

「なぁに、ミミ子」

「…痛いよう」

「あ…失礼。」


名残おしそうに最後の一押しをすると、アユ芽ちゃんはようやく指をはなした。


「いやあね、ミミ子が朝からうちのパチみたいな顔してるから、おなぐさめしようと思って。」


さすが、変態、もとい不思議ちゃんである。あれで慰めていたとは。

凡人の見解では到底おしはかれない未知の領域があるのだろう。


「パチって何?」

「うちの犬、いっつも悲しい顔してるの。」

「…ちゃんと散歩してる?」

「してるよ、誰かが。」


新崎家に飼われているとは哀れなパチ。


「今度パチにあわせてね。」

「うんうん、もちろん。」


アユ芽ちゃんの家はおそろしく金持ちらしい。

そのため庶民のわたしは気遅れしていままで一度も行ったことがなかったのだが、ポチ…じゃなくてパチのために行ってみる必要がありそうだ。