山田の後について教材室に入ると、コピー機を使っている女の先生がいた。


戸波先生だ。


髪をいつもひっつめて山田とは対照的に地味だが、生徒には常に口うるさく、うっとうしがられている。

でも、出来の悪いわたしのような生徒でもガミガミ言いながら、最後まで見捨てず世話してくれるこの先生が、わたしは嫌いではなかった。


先生がこちらを振り返った。


黒縁のメガネの奥に隠れた顔は、始めてあった時にうけた印象よりずっと若い。


どんな人生が彼女を、ハ○ジに出てくるロのつく人のように作り上げたのかわたしは少し興味があった。


「あら、おはようございます。山田先生と上松さん。」


戸波先生は珍しくにっこり笑って言った。

「おはようございます、先生。」


わたしは山田に対するあいさつとは、アユ芽ちゃんの外見と中身くらいギャップのある優等生スマイルで返事をかえした。

しかし、山田はそんなわたしをからかうでもなく、何となくぎこちない面持ちで


「…おはようございます…戸波先生。」


とあいさつした。


わたしは不思議がっているの丸出しの顔で山田を見上げた。


こんなふうに、どこかおどおどしたような山田は初めてみる。


山田の視線は、再び作業を始めた戸波先生の背中に釘付けになっていた。


「…先生?」


わたしの声にはっと我に返った山田は、テキパキと棚から薄い教材を取り出して、わたしに

「ほれっ」

と渡した。


うっ


お、重たい。


いくら薄くてもクラス全員分となるとけっこうある。