「ねぇ、お父さん、ミミ子ちゃんの描く絵、見たことある?」


今日、ミミ子ちゃんが美術部だと言っていたことを思いだして、ふと尋ねると、


「暗い絵、だな。」


と実にシンプルな答えがかえってきた。


「暗いって……どんな暗さ?」


「暗いといえば暗い。」


……聞いた相手が悪かった。


「お父さん、美術的センス皆無だもんね」


俺は小さい頃から、絵を描くのが好きだった。


壁だろうが床だろうが好きなところに描いてたから、今は別の誰かが住んでる前の家は、実に芸術的に彩られていた。


子どもの絵ながらも、なかなかのもんだって、よく褒められてた。


特にばあちゃんにはよく褒められた。


「この父親から生まれてきたのによくもまぁ、こんなに上手に描けるもんだ」


って。


「まぁ、いーや。今度見せてもらうし。」


…ミミ子ちゃんは俺の絵が描きたいらしいし。


「仲がいいんだなぁ。知り合う機会なんてあったのか?」


「うん、まぁ」


本屋での劇的な出会いを知り合う機会というには少しおかしい気がしないでもないが。


しばらく俺もお父さんも黙っていると、お父さんが思い出したように言った。


「ユウ太、あいつのために一つ補足しとくとな」


お父さんがおかしそうに笑う。


「上松の描く絵は、綺麗だ。」


「……そっか」









俺は時計をちらりと見て、お父さんの手を無理矢理はがして台所に向かった。


お母さん、そろそろ帰ってくるだろう。


こっちが恥ずかしくなってくるくらいらぶらぶしてる、今はまだ元夫婦の二人のために、晩ご飯の仕上げをしなければ。


三人分のお皿を並べながら、思わず口元がほころぶ。


幸せだと感じる。


もちろん、心のうちには、お父さんとお母さんには見せない複雑な思いもあるけれど。


今が幸せだった。