「……あとさ、もう一つ聞きたいことあるんだけど……」


「な、んだ?」


俺の口調が少し変わったことに気づいたらしいお父さんが不安げに返事をした。


「…お父さんさぁ、ミミ子ちゃんの こと、どう思ってるわけ?」


「へっ、ミミ子のこと?」


お父さんの声が思いっきり焦る。


つか、ミミ子って呼んでんのかよっ‼


「お父さんさぁ、気づいたんでしょ?たぶん……俺がミミ子ちゃんの呼び出し食らった日。さすがに、あんだけ目ぇウルウルしてたのに、気づいてないとかないよね。」


気づいてないとか言いやがったら……


一週間間ぐらい口きいてやらないっ


お父さんは予想に反して、すぐに冷静にかえって、


「気づいてる…ユウ太が思ってるのと俺が思ってるのが同じなら。」


少し悲しげだった。


俺は一人称が、『お父さん』から『俺』になっていることに気づいた。


「お父さんにとって、ミミ子ちゃんは特別な生徒?」


「ああ」


背後でお父さんが微笑んだのがわかった。


「教師がえこひいきしちゃいけないんだけどな、あいつはなんか特別だな。」


それはミミ子ちゃんが望んでいたものとは形の違うものだけど、それでもミミ子ちゃんだけの、山田先生の『特別』。


「最初はさ、少しユウ太に似てるなって思ったんだ。」


「は?」


予想外の言葉に思わず口から声が漏れる。


「まぁ、すぐに違うって分かったけどな。一匹狼で、不敵で、泣き虫で、可愛い。それが上松未美子。でも…」


俺のお腹にまわされてる腕の力が少し緩む。


「クラスの奴らのおかげで、一匹狼はなくなったな。」


お父さんの声音に、教え子に対する愛情がにじむ。


俺はお父さんの口から出た一匹狼という言葉に静かに驚いていた。


ミミ子ちゃんを取り巻く不敵な空気。


しかし、それは他人を拒むようなものではない。




……アユ芽ちゃん?


めちゃくちゃ自由に振舞ってるように見えて、実はすごくミミ子ちゃんを気遣ってる、綺麗な女の子。


あの子が、ミミ子ちゃんを変えたのか?


俺は何故か少し悔しかった。


自分勝手な感情だけど、俺以外の誰かが
俺の知らない以前のミミ子ちゃんを、俺の知ってる、俺が好きになったミミ子ちゃんに変えたのだという事実が、たまらな悔しかった。