「座って。」


ユウ太くんは、椅子をわたしに渡すと、もう片方の椅子に座って、にっと笑った。


わたしも椅子に座って、自分の姿が描かれたキャンバスを眺めた。


「さっき、これ描いたのユウ太くんだって言ったよね。」


「うん、そうだよ。」


「すごく、上手。」


褒めると、ユウ太くんは、絵の中のわたしそっくりの不思議そうな顔をした。


「なんで、自分のこと勝手に描いてるんだって言わないの?」


「……」


そんなこと、思いつきもしなかった。


デッサンだけで人を惹きつける画才に、わたしは微かに嫉妬を覚えていた。


「嫉妬の炎が燃えてたから、そんなこと思いもつきもしなかった。」


素直に言うと、ユウ太くんは


「ほえっ?」


と変な声をだした。


「わたし、美術部だから……って、言ってなかったっけ?」


「……うん。知らなかった。」


なんとなく、沈黙が流れた。


静寂を破ったのは、わたしだった。


「なんで、わたしのこと描いてるの?」


言われてみれば、確かに不思議。


ちびっ子少年のユウ太くんに、ショッピングセンターの経営者なんてやってる友達がいるのと同じくらい不思議だ。


ユウ太くんは、心底困ったような顔をした。


途端に山田の面影があらわれる。


みていられなくて目をそらした。


「……ミミ子ちゃんのこと、好きだから。」


ふいに、ユウ太くんが答えた。


わたしは驚いて、再びユウ太くんと顔を付き合わせた。


そこには、びっくりするくらい真剣な目をしたユウ太くんがいた。


山田の影は消えていた。