「もう、会っちゃダメだよ。あんな怖い人たち。……とくにアユなんたらって方。」


「アユ芽ちゃんは天使だ。もてない男の聖域だ。」


失礼なことをのたまうヒロ人に、俺はピシャリと返した。


プンプンと頬を膨らませる俺に、ヒロ人はぼそりと言った。


「……天使っていうなら、ミミ子ちゃんの方が近いと思うけど。」


………


「はぁ⁈」


俺は驚いてガバッと立ち上がった。


周りの奴らが何事かと視線を向けてくる。


俺は慌てて席につくと、ヒロ人に小さく尋ねた。


「何?お前、ミミ子ちゃんのこと好きなの?」


「はぁ?」


今度は俺の言葉にヒロ人が反応した。


「な、何でいきなりそんなとこに話しが飛躍するの。」


ヒロ人は無表情でたじろいでいる。


たしかに。


でも俺は確かめずにはいられなかった。


「ミミ子ちゃんのこと、好きってわけじゃないんだな。」


「当たり前だ。…あんなひょっとこ。」


当たり前だ、の言葉にホッと息をはいて、俺は最後の意味不明な言葉を聞き逃した。


「何で、そんな過剰反応するんだ?」


ヒロ人が不思議そうに言った。


「別に。」


俺は返事にならない返事を返して黙りこくった。


正直自分でもわからない。


何過剰反応してるんだ?


ヒロ人はただミミ子ちゃんの方が天使に近いって言っただけなのに。


ヒロ人からすれば、アユ芽ちゃんは危険人物だから、ミミ子ちゃんのがましってだけの話しだったのに。


……あれ?


「何で、アユ芽ちゃんはアユなんたらなのに、ミミ子ちゃんの名前は覚えてるんだよ。」


拗ねたような口調で俺は尋ねた。


「……はあ。」


ヒロ人の顔にわけがわからない、という感情がじんわりとにじむ。