「なぁ、お前どうしたの?」


俺は昼休みに入るといつものようにお母さんお手製の弁当を持ってヒロ人の席に向かった。


おもむろに向かい合うと、俺は恐る恐るヒロ人の顔を覗きこんだ。


「どうしたって、何が。」


ヒロ人が無表情に首をひねる。


そんなヒロ人に俺はひっそり安堵の息をはいた。


よかった。


またニッコリされでもしたら、ちまたの女子高生たちとは別の意味で悩殺されてたかもしれない。


「ごめん。何でもない。」


俺は正常なスマイルをヒロ人に返して、弁当を開いた。


すっかり安らかな顔で中身をぱくつく俺を、ヒロ人はなぜかじっと見つめてくる。


「何……?」


あんまりジロジロ見てくるので、俺は我慢しきれずたずねた。


「いや、さ。」


ヒロ人は無表情に言った。


「ユウ太が幸せそうだから、見てたくて。」



…………

………………さむい。


さむい。すごくさむい。ここは南極か。極寒の地か。


キザったらしいセリフが妙に似合ってるのもなんか腹立つ。


「俺、そんなにいっつも不幸な顔してるか。」


「いや、別に。ただ、元気なかったから。あの……魔窟に潜入して以来。」


「……」


魔窟。


世のむさい男どもが夢にみて止まない秘密の花園を、魔窟呼ばわりか。


さすがヒロ人。


うちの担任あたりが泣くぞ。