俺はお嬢様学校の文化祭で、一年ぶりに浮気男のお父さんと再会し、精神的にいちじるしい打撃をくらっていた。


さらにその後、乙女の夢が具現化されたような花の庭園で、ミミ子ちゃん相手に恥も外聞もなく泣きわめいたことが後になってじわじわと恥ずかしかった。


しかし。


何故かあの時のことを思いだすと恥ずかしさと同時に、夢にうかされたような不思議な気分になる。


幻想的なあの日に、いつまでも浸っていたいような、あやうい気分。


俺はミミ子ちゃんをぎゅっと抱きしめた時のことを思いだして一人にやけた。


慌てて頬をおさえて隣に視線を向ける。


幸いみんな、授業に集中してるか寝てるか遊んでるかで、俺のことなどまるで気にしてない。


俺はほおっと息をついた。


いきなりにやけたりしたら、ヒロ人ばりの変態と思われるじゃないか。


そこまで考えて、俺はひっと息をのんだ。


そういえば、いた。


授業中だろうがなんだろうが俺の方みてそうなやつ。


俺は教科の先生が黒板ばっかり書いて全然こっちを見ないのをいいことに、恐る恐る斜め後ろを振り返った。


やっぱり。


俺とばっちり目があったのは、息を呑むほどの美少年。


俺と目があうと、ヒロ人はニコッと笑った。


ひいっ


俺はゴリッと音がしそうなくらい素早く首を前にまわした。


それでもまだ視線を感じる。


あの文化祭が終わってから、ヒロ人はものすごく変だ。


いつでも変だが、ヒロ人のくせにという点で恐ろしく『変』だ。


滅多なことでは表情を変えないくせに、最近は俺と目があうと、さっきみたいに悩殺スマイルをかましたりする。