「俺さ、もっかい由加里にプロポーズしようと思うんだ。」


は……?


わたしは一瞬頭が真っ白になった。


「あっ、由加里っていうのは戸波先生の名前だぞ。」


「…知ってますよ。」


かろうじてそれだけ返した。


「でも、ユウ太が嫌だったら、ダメだろ?ユウ太がどうしてもパパが嫌いっていうなら……でも」


山田はうつくしい笑顔をわたしに向けた。

「幸せを、取り戻したいってずっとずっと思ってたんだ。離婚した時から、ずっとだ。」


山田は噛みしめるようにつぶやいた。


「でもな、まずはユウ太に会わないと。由加里にお願いしなきゃ、な。」


不安そうに上を向く山田の顔が、少しぼやけて見えた。


「……失礼します。」


「えっ?」


目を丸くする山田をおいて、わたしは逃げるように展学室を離れた。


「気をつけて帰るんだぞぉっ」


山田が後ろで叫んでいる。


「……はい。」


わたしはいつぞやかのように小さく返事をした。


今日は苦さを噛みしめて。