「で?ナイスなタイミングで戻ってきた戸波先生がお盆を落としてグラスがパリーン、ついでに山田先生に対する愛情もパリーン、みたいな。」


「う…ん、なんか急に話しが軽くなったけど、そういうことだ。」



わたしは安っぽい二時間ドラマみたいな物語に腕をさすった。


さむいぼができてる。


「…でも、美香さんって人は苦しかったろうね。」


「ああ。一番苦しかったのは、美香だと思うよ。」


息子を亡くして、夫とも別れて、両親とは不仲で、最後は支えてくれた友人夫婦の離婚をまねいた。


「なんで、キスなんてしたんだろう。山田相手に。」


「…おい、化けの皮がはげてるぞ。」


思わず呼び捨てしてしまった口を抑えて、わたしはおほほと笑った。


「ねぇ、山田先生。」


「…なんだ。」


「もしかして、山田先生の初恋は美香さんだったりするんですか。」


山田の肩がピクッとなった。


図星か。


「もしかして、キス、避けようと思えば避けれたけど、何故かさけないで受け入れちゃったから、罪悪感で、離婚のハンコ押すことに同意しちゃった、みたいな?」


「お前、さっきから、時代背景が現代に戻ってきてるな。」


……誤魔化した。