わたしはユウ太くんの隣に座って、またひっくひっくと泣きはじめた。


「そ、ひっく、それでね、去年の、ヒッ
、文化祭でね、わたしの、海の絵が、ヒッく、かざら、れて、山田が、綺麗な絵って、ヒ、言って、くれた、の」


その時の山田の笑顔を思いだして、また大量の涙が溢れ出した。



「そっかぁ、お父さんっていい先生なんだぁ。」


泣きやんでいるユウ太くんは、山田と少しも似てない、真っ赤になった大きな目を眇めて、わたしに微笑みかけた。


「…うん。アホ、だけど、いい先生。」


わたしの言葉に、ユウ太くんがふふっと笑う。


「うん、お父さんはアホだよねぇ。」


「のわぁっ」


「へ?」


突然叫んだわたしにユウ太くんは間抜けな声で答えた。


「は、鼻水が、でる。ティッシュ、持ってない?」


「ああ、ティッシュね。」


ユウ太くんはポケットからティッシュを取り出した。


「はい、チーン」


「…ユウ太くん」


「なぁに?」


「それはさすがに恥ずかしいな。」


はぅっ


ユウ太くんは目元以外も真っ赤に染めて俯いた。


天然で高校生に鼻チーンってやらせようとするなんて、山田と戸波先生の息子恐るべしだ。


「ティッシュ、ありがと。」


ユウ太くんの珍行動のおかげで涙も飛んだわたしは制服が汚れるのもお構いなしに、寝転んだ。


ユウ太くんは、そんなわたしに戸惑っているようだ。


「俺も、寝っ転がったほうがいい?」


「ユウ太くんの自由です。」


しばらくためらった後、ユウ太くんも寝転んだ。


ユウ太くんの制服を洗うのは戸波先生だろうか。


「ねぇ、ユウ太くん。」


「なぁに。」


つきぬけるような空が、わたしたちを見下ろしている。


「ユウ太くんは、何で泣いてたの?」


「うーん、何となく、だよ。」


「そっかぁ」


文化祭の喧騒は、再び遥かに遠ざかった。