天涯孤独となった和明だが、相変わらず、シナと朝鮮を庇った人物だという警戒心は、日本人達の心の中からぬぐい去れないでいた。
その時、和明の心の支えになったのは、米軍のダニエル軍曹の息子、アンドレアだった。
アンドレアは、和明と同じ歳だった。
アンドレアは、和明と大親友になった。
アンドレアは、日本人基地に良く出入りしていて、良く和明と一緒に遊んだりしていた。
しばらく経ったある日のこと、アンドレアは、一つの提案を和明にした。
『お前は、自分が日本人だということを忘れて過ごしているのではないか?』
そして、ある人物のところに、和明を連れて行った。
その人物は、日本人で、しかも自衛官で、日本の右翼組織の人間だった。
その人物の名前は、吉田と言った。
吉田は、口ヒゲを生やした、体格の良い小柄な男だった。
『一体、こんな時間に、二人で、何の用だ?』
吉田は、和明とアンドレアに問いかけを向けた。
『…日本人だということを、忘れかけている親友に、日本人だということを、思い出させてやりたいんです。』
アンドレアは、吉田にそう告げた。
吉田は、自衛官のテントに、軍服を着た姿で、二人を招いた。
『そうか、君が和明君か…。』
吉田は、とても深刻そうな表情で和明の方を眺めると、和明とアンドレアを手招きした。
『…そうです、私が、和明です。…中田和明です…。』
吉田は、和明のその返答に、頷きを示すと、次のように話を始めた。
『日本はな、世界中のどこの国でもない、日本国という一つの国なんだよ。』
吉田は、話を続けた。
『今は、尖閣諸島を含めて沖縄全土をシナが支配し、シナ自治区・琉球となっていて、本土はアメリカの州の一つになっているがな。』
和明は、それを、一つ一つ聞いた。
『…日本を、取り戻すことは出来るのでしょうか…?』
和明の質問に、吉田はしっかりと頷いた。
『シナ軍が、沖縄から撤退すれば、…そして、もう二度と、沖縄に侵攻しないことを誓えば、日本は元通り、日本国という一つの国に戻ることが出来るだろう…。
そして、その時、アメリカに統治されている本土も、アメリカが引き上げれば、日本は日本国に戻ることが出来る…。
だから、その日が来るまで、日本を取り戻す日が来るまで、…我々は、アメリカ軍と共に、シナ軍と戦うつもりでいる…。』
そして、和明に、一つの写真を取り出して見せた。
『これは、天皇陛下のお写真だ。…私は、これを、片時も忘れることなく持っているのだよ。
…かつての英霊の皆様が、天皇陛下をどのようにお慕いしておられたか…。
それを、忘れることなく、私も、日本人として、日本人のシンボルをけして忘れたことはない。
日本は、日本なのだから。』
そして、吉田は続けた。
『日本を取り戻すということは、それは、日本人の魂を呼び起こすことだ。
君の中にも、私の中にも、日本人の魂はある。
…日本人の魂は、いついかなる時も、天皇陛下と共にあるのだ。
…だから、かつての英霊の方々が、日の丸を掲げて戦ったことを、その子孫の我々は、けして忘れてはならないのだよ。』
その言葉を聞いて、和明は初めて泣いた。
『…そうですよね、日本は、日本国という一つの国ですよね…。
私は、本当にシナと朝鮮に騙されていたのですね…。
…天皇陛下を思い出すと、涙が溢れてきました…。
だから、日の丸を皆で掲げていたのですね…。私は、その意味すら今まで知らなかったのです…。
これからは、日の丸を掲げるようにします…。
日本への愛国心への意思表示として…。』
そして、日本という国がいかに尊い国なのか、日本はどれ程までに素晴らしい国なのかを、思い出し、日本がとても大好きになった。
『吉田さんのお陰で、日本人が大好きになりました。
かつて私が反日感情を持っていたのが、嘘のようです。
…日本人は、とても、素晴らしい民族なのですね…。』
何故なのか、分からなかった。
今迄日本のことなど、詳しく知りもしなかったはずなのに、日本のことがどんどん好きになって行く自分がいた。
何故だろう、それは、天皇陛下のお写真と、自衛官の吉田の姿を見て、吉田と言葉を話したら、自然とそのような気持ちになって行ったのだった。
とても不思議なことだった。
自分の中に、日本民族の大和の血が流れていて、大和の魂が自分の中に脈々と存在し続けているのを、和明自らが感じたからだろう…。
『もう、どんなことがあっても、反日勢力に騙されるような自分にはならないことが確信できます…。
反日勢力を根絶しましょう…。
吉田さんと話して、そう思ったのです。
日本人に生まれて来れて良かった、自分が日本人で良かった。』
そして、和明の瞳から涙が溢れた。
すると、吉田が、笑って言った。
『君は、泣き虫だな、男が滅多なことで泣くもんじゃない。』
そして、吉田は続けた。
『君を、シナや朝鮮から救い出すことが出来て、本当に嬉しかった。
我々は、君を救い出すために、必死で戦っていたのだよ。
何故か、それは、君が日本国民で、日本人だからだ。』
その言葉を聞いて、和明はしっかりと頷いた。
『そうですよね、自分は、日本国民で、日本人であって、本当に幸せに思っております。』
そして、三人で、夕日を眺めた。
『なんて美しい夕日なんだろう…。』
沖縄の大地を、夕日がゆっくりと沈んで行くのを、三人でしっかりと眺めていた。
帰り道、アンドレアが和明に言った。
『素晴らしい人物に会って良かっただろ?日本人としての誇りを、取り戻せただろ?』
アンドレアの言葉に、和明はしっかりと頷いた。
『ああ、日本人としての誇りを、取り戻せたぜ。』