日本の沖縄、山の中、夜、廃れた廃墟の神社の周辺に、一人の8歳位の少年が必死に何かから逃れて隠れていた。
『音がするぞ、こっちだ。こっちにも、まだ、生き残りがいるかも知れない。』
山の中を、数十人の兵隊が歩いている、その中の一人が、少年の隠れた時の足音を聞きつけて、懐中電灯のライトを照らした。
そのライトは、少年が隠れていた茂みに見事に当たった。
少年の涙の跡が残った顔が、そのライトの光に照らし出された。
『生き残りがいたか…。黎明士官、日本人だから殺してやりましょう!』
兵隊の一人がそう言って、銃をかまえた。
『待て。まだ子供だ。…子供には罪はないだろう?…その銃をしまえ。』
中から、上官らしき兵隊がやってきて、その少年の近くへ行った。
少年は、足を怪我しているらしくて、動けなかった。
上官の兵隊は、その少年を抱き上げた。
『…可哀想に…。…そうだ、これを…。』
上官の兵隊は、自分の首にかけていた水晶の付いた竜のペンダントの首飾りを、少年の首にかけた。
そして、少年の頭を優しく撫でた。
すると、どこからか、バーンという銃声が聞こえてきた。
『黎明士官、また日本人が反乱を起こしたのでしょう!銃声が聞こえます!こんなことをしている場合じゃありません。行かなくては!』
兵隊の言葉に、黎明士官は頷き、少年をその場に置き去りにしたまま、部隊はその銃声の元へと向かった…。

その少年は、首にかけた黎明士官から貰ったペンダントを握り締めながら、近くの市場の方角へと、歩き出した。
市場へ辿り着くと、人々が沢山いて、賑わっていた。
そこへ、一人の日本人がやってきて、その少年を人買いに売り飛ばそうとシナ人の元へと連れて行った。
すると、シナ人は、その少年を見て、少年の手を引っ張った。
その時、少年は首飾りを手で握り締めた。
人買いのシナ人は、その少年の握り締めている首飾りを、これはなんだと奪い取ろうとした。
そして、そのペンダントを見るなり、目を丸くした。
『これは、シナの皇帝の竜の人民解放軍の印が付いたペンダントではないか!この子供はシナ人だ、しかも、シナ共産党の子供だ。きっと親が探して来るに違いないだろうし、同胞の息子を売ったりすることはできない。』
そう言うなり、シナ人はその子供を売り飛ばそうとした日本人を怒り出した。
『どうするんだ?もし見つかったりしたら、俺はとんでもない目に遭うんだぞ!』
シナ人がそう怒鳴っている隙に、首飾りを握しめたまま、少年は全速力で駆け出した。
必死で、奴らから逃げ出した。
そして、サトウキビ畑の草原の辺りにまで来た。

『…誰か、助けて!』
少年はそう口に出すと、ペンダントを握り締めたまま、わんわんと泣き出した。
この少年の名前は、中田和明といった。
和明は、尖閣諸島領有権問題で尖閣諸島は日本領土だと主張した日本人中田始教授の一人息子で、和明を除いて中田教授と中田教授の仲間の右翼団体全員がシナ共産党の人民解放軍が沖縄に侵攻した際に殺された。
そして、和明一人だけが、殺されずに助かったのである。
更に、和明を売り飛ばそうとした人買いの手からも、奇跡的に助かった。
和明を売り飛ばそうとした人買いは、和明を日本人ではなく、シナ人だと誤解したのである。
そして、和明は、命拾いし、こうしてサトウキビ畑の真ん中で、わんわんと泣いていた。

『…どうやら、助かったようだよな…?』
そこへ、20代位の若者が少年の方へと歩いて来た。
『坊主、名前は…?』
若者は流暢な日本語で、少年へと語りかけた。
どうやら若者はシナ人のようである。
『和明。』
少年は、若者に向かって、そう一言告げた。
『和明か、俺は龍輝。…龍輝と読んでくれていいぜ。』
若者は、少年を抱きかかえると、どこぞのテントの方へ連れて行った。
そのテントには、大勢の子供たちがいた。
数十人の日本人たちがいて、その日本人たちは、龍輝に拉致された日本人たちであった。
この龍輝という若者は、日本人拉致グループの極左リーダーだった。
『お前は、今日から、俺の仲間だ。』
若者は少年にそう言った。
『しかし、それにしても、お前、凄い首飾りを持っているな…。
シナの皇帝の竜の、人民解放軍の印がついた水晶の首飾りなんて、初めて見たぜ。
それは相当価値があるモノだ。
大事にしろよ、お前の、両親の形見だろ?』
和明は、首を振った。
『兵隊さんから貰ったんだ。』
和明の言葉に、若者は笑って返した。
『お前の、身分を証明するモノは、その首飾りしかないんだぜ?
だからお前が持っているモノで、俺はお前を判断しなきゃならない。
この戦火で、どさくさに紛れて、しかも、お前みたいな子供が沢山いるからな。
だから、俺はお前みたいな子供を沢山助けてきたんだ。
お前を判断する材料は、その首飾りしかないからな、きっとお前は大事にされて育ったシナ人の子供だったんだろうな。』
和明は、まだ8歳だったので、良く状況が理解出来なかった。
『違う、俺は日本人だ。』
和明が龍輝に言うと、龍輝はにっこりと笑って首を左右に振った。
『まぁ、日本人だっていいのさ。
言えることは、その首飾りをお前が持っていて、俺に拾われたお前はラッキーだったていうことだけさ。』

それで、その首飾りを、自分の身分を証明するモノだと言う認識をしただけだった。
龍輝は、非常に和明を良く可愛がった。
そして、シナ語の教育と、シナの教育をして育てた。
和明は、龍輝を兄のように慕っていた。
始めシナ人だと思っていた龍輝は、シナ人と朝鮮人の混血で、在日朝鮮人だった。
そして時が経ち、和明はやがて、12歳になっていた。

和明が12歳になった時、テントに米軍がやってきた。
『龍輝!龍輝のライバルの、米軍が来たよ!米軍は、龍輝はどこだと言っているよ!』
和明がそう言うと、龍輝は表情を歪めてテントの外へ出て行った。
それきり、龍輝は帰らぬ人となった。
和明が駆け付けた先には、血まみれになって死んでいる龍輝と、その周りを取り囲んでいる米軍がいただけだった。
米軍の中から、一人の日本人が出てきて和明に言った。

『私の名前は日本人の松岡だ。
君は日本人か?我々は、君たちを助けるためにここに来たんだ。
拉致被害者の君を助けるためにな。
…この龍輝という男は、大勢の日本人を拉致して、シナ人の教育をさせた、拉致グループのリーダーだったんだよ。
今すぐ、日本人の仲間が沢山いるところへ行こう。』
そして、龍輝に拉致されていた日本人たちは、米軍の元へと向かったのである。

龍輝を殺したアメリカ人は、ダニエル軍曹と言った。
ダニエル軍曹とこの松岡という日本人は、和明達数十人の日本人を、米軍の保護する日本人基地へと連れて行った。

米軍のところには、大勢の日本人たちがいて、皆、全員日の丸を掲げていた。

『日の丸…。』

和明は、首を左右に振って、日の丸を拒絶した。

『嫌だ、嫌だ、日の丸なんて掲げないぞ!…龍輝を殺したアメリカ人や日本人なんて、許せない!』

和明は、わんわんと大声で泣いた。

すると、そこに、一人の日本人がやってきて、和明に言った。

『貴様は、反日だな?』

そして、数人の日本人が和明を取り囲んで、ボコボコに殴りつけた。
『なんで、貴様が叩かれているのか分かるか?貴様が反日で、偽日本人だからだ!』
日本人達は、和明を散々に叩いた。
和明は、口の中から血の味がした。

『シナ人と朝鮮人を庇った反日売国奴め、貴様のような奴が、日本をダメにしたんだ。』

和明は、日本人達が去った後、解放軍の首飾りを手で握り締めた…。

『俺は、…日本人なんて、大嫌いだからな…。
俺を育ててくれた龍輝を殺したアメリカ人と日本人なんか、大嫌いだからな…。』

和明の心の中に、強い反日感情と反米感情が湧き上がったのは、言うまでもない。
何しろ、自分を育ててくれた唯一の人は龍輝で、自分の身分を証明するモノだったのは、解放軍の首飾りのみで育ったのだから。
だから、なんとなく、他の日本人たちと、和明は違っていた。

自分は、一体、どこの国籍で、どこの国の人間なのだろう。
和明は、次第に、自問自答するようになった。

自分の両親を殺したのはシナ人だが、自分を殺さなかったのも同じシナ人で、そして、シナ人の子孫である龍輝が自分を現在まで育て上げた。
…そして、自分を育て上げた龍輝を殺したのは、アメリカ人と日本人だった…。

誰を恨めばいいのか、誰を憎めばいいのか…。

和明は、自問自答した。

一体、どこに敵がいるのか…?
同じ人間であるのに、何故殺し合わなければならなかったのか…?
人殺しに、人殺しで返したら、同じ人殺しになる、そうすれば、もう、両者とも裁かれることになるのではないだろうかと、和明は思った…。