宝物〜絆〜

 日の出を待つ薄暗い空に、朧げに光る月が浮かんでいる。

 四月も、もう下旬だというのに今日はやけに肌寒い。寒空の下、私はチャリに跨がりバイト先へと向かった。

 バイト先に到着した私は、店長にアポを取っておき、今日の配達分を受け取る。

 そして全て配り終え、店に戻ると即店長を捕まえた。

「店長。今、良いですか?」

「あぁ、話があるんだったね。お茶でも飲んでくかい?」

 恰幅のいい温和な感じの店長。ニコニコと笑みを浮かべて、お茶まで誘ってくれるから、“辞めたい”って言おうとしてる事に気が引けてくる。

 やんわりとお茶を断って、辞めたい事をオブラートに包んで伝えると、店長は「そっかぁ。寂しくなるなぁ。また働きたくなったらいつでもおいでよ」などと、渋い顔をしながらも了承してくれた。

 私は後ろ髪を引かれるような気持ちになりながら帰路についた。

 家に着いたのは六時半。今日は寝る事なく手早く用意をして、八時には家を出た。

「おっす」

 玄関の鍵を掛けていると、横から秀人の声がした。

 一緒に行く約束をしてた訳ではないが、行く場所は一緒なんだし声をかけてみようと思っていたから、まさにナイスタイミングである。