宝物〜絆〜

「ああ。本当に居ねえよ」

　私は軽く頷いた。

「つー事は、あの子は美咲が居る前で堂々と嘘をついたのか。何でそんなすぐにバレるような嘘ついたんだろな？」

　秀人は腑に落ちないって感じの表情をしてるけど、ここで突っ込んだ話をすんのは得策じゃない。

　私がバイト帰りに何をしてたか聞いてこないのは、内容は分からないにしろ、何かあった事に気付いてるからこそ気を使ってくれてんだろうから。

「ハハ。確かに。それよりさ、明日から学校じゃん？　もうクラスとか分かってんの？」

　私は軽く笑って話を流し、話題を変えた。

「まだ聞いてねえ。明日の朝、職員室行くから、そん時に言われんだろ」

　秀人は一旦、スプーンを置き、麦茶を口にする。

「そっか。同じクラスんなったりしてな」

　また同じ学校に通えるだけでも嬉しいけど、同じクラスんなれたら良いな。まあ、噂が落ち着くまでは一緒に居るのも微妙だけど。

「確か八つクラスあんだよな？　確率は低そうだけど。まっ、クラス違っても美咲んとこ行くから安心しろ」

　秀人は私の頭にポフッと手を置いて優しく撫でる。

　いつもの私なら、秀人に迷惑かけたくないって気持ちの方が勝ってたんだろうけど、今日の私は秀人の言葉が素直に嬉しかった。

「ありがと」

　私は自然に笑顔になってお礼を言う。

「おっ、おう」

　秀人にとっても予想外の反応だったのか、返事が吃っている。

　実際、明日学校行ったらどんな状況になんだろうな。学校で広まってる噂話では被害者が茜で加害者が私。その二人が元通りになってたら……？