季節は春。舞い散る桜の花びらが美しくも儚い放課後の校庭で、目の前に居る男は顔を真っ赤にして口を開く。

「俺、神谷さんの事が前から気になってて、あの、つまり……、好きです。付き合って下さい」

「へっ? 中西は茜と付き合ってんじゃん? 冗談にしても笑えねえよ」

 そう。中西は私の中学時代からの親友、望月茜(モチヅキ アカネ)と付き合っている。言って良い冗談と悪い冗談ってもんがあんだろ。本当笑えねえ。

「その、茜と付き合ったのは神谷さんに近付く為で、あいつの事は初めから何とも思ってな……」

「はっ? なに言ってんの?」

 目の前の男が言っている意味を理解する事が出来ず、段々イラついてきた。

「本当なんだ。初めは神谷さんの近くに居られるだけで良かった。でも近づいた分、余計に好きになって……、付き合いたいって思うようになってしまった。信じてくれ!」

 それが本当なら。

「ふざけんなよ! 私に近付く為だって? 茜の事、なんだと思ってんだよ。最低。返事はもちろんノー!」

 私は中西……、じゃなくてバカ西の頬に思いっ切り平手打ちをかましてその場を去った。