「でも……」


ラドリーンがためらうと、砂色の髪をした騎士は首を横に振った。


「今の貴女では猫はおろか、ご自分さえも守れはしませんよ」

諭すように言う。

「ご婦人は力がない。その代わりに男よりも知恵がある。知恵を磨きなさい。それが御自身を守るでしょう」


騎士が言っているのは、船酔いでおぼつかない足元の事ではない。

ラドリーンがこれから取るべき身の振り方を忠告しているのだ。

けれど、どうすれば知恵を磨けると言うのだろう?


「よく観察する事です。物事は見た目通りではないのです」

騎士はラドリーンの考えを見透かすように言った。

「耳障りのよい言葉を述べる者が、貴女の忠臣とは限らない」


「あなたも?」


「わたしもです」


「では、猫は預けられないわ」


「これは一本取られましたな」

騎士は苦笑した。

「ですが、その猫に関しては信用していただいても大丈夫です――おい、リナム。いつまで死んだふりをするつもりだ?」


名前を呼ばれて、リナムは騎士の顔を見た。


――マスタフ? ここで何してんのさ