数日会えないだけで落ち込む心も、

会えた時の浮き立つ心も、

口づけのときめきも、

目が眩むような抱擁も、

全て、全て知っている。


けれど、二人の人間を同時に愛せるとは思えない。


「母は父を愛していなかったのかしら」

ラドリーンは呟くように疑問を口にした。


テオドロスの目の色が変わった。

「あの方は、わたしを愛していたんだ!」

激しい口調で言う。

「王など少しも愛していなかった!」


あまりの剣幕に、ラドリーンは驚いて目を丸くした。

それを見て、テオドロスは気を取り直したようだった。


「すみません。少し感情的になったようです。ご気分はまだすぐれませんか?」


ラドリーンはうなずいた。

「船とは揺れるものですね」


「そうですね。日没までには港に着きます。もう少しご辛抱下さい」


「都までは遠いのですか?」


「普通ならば3日ですが、貴女は旅慣れぬお方ですからね。5日くらいの旅程を考えています」