近づいてきた男は、白っぽい金髪と薄い茶色の瞳の持ち主だった。

他人と接する機会のないラドリーンには男の年頃を推し測る事はできなかったが、若者と呼ぶには少しばかり年かさな容貌だと思った。

男は優しげな笑みを口元に浮かべていた。が、目の鋭さが柔らかさを打ち消してしまっていた。


この男が客なのだろうか?

司教と聞いていたのに、僧服ではなく、騎士が着るような普通の服を着ている。外に立っていた騎士達よりも遥かに上質の物だったが、やはり十字架と狼を組み合わせた紋章がついていた。


「テオドロスです。お見忘れですか?」


男の顔に見覚えはない。

名前すら記憶にない。

ラドリーンは戸惑ったように男を見上げた。


「覚えておられないのですね? 10年前、わたしがこの城にお連れしたのですよ」


「ごめんなさい。ここに来る前の事は覚えていないのです」


「まだお小さかったから、無理もない」

男は手を差し出した。

「こちらへ。椅子におかけになって下さい」


ラドリーンは素直に手を預けた。

リナムがドレスの裾からはみ出さないかヒヤヒヤしながら、勧められた椅子に座る。