「お客様はテオドロス司教様です」


珍しく<侍女>が折れた。

名前を聞いたところで、相手がどういう人物なのか分かる訳ではない。

それでも、ラドリーンにとっては『知る』という事に大きな意味があった。

ラドリーンはリナムをそっと床に下ろした。


<侍女>が持って来た服は、光沢のある布で仕立てられていた。淡いクリーム色が美しい。

が、その袖口ときたら馬鹿げたほど広がっていて、手を下ろすと端が床につくほどだった。

後ろ側の裾も、引きずるほど長い。


「これは何の衣装?」

ラドリーンは肩越しに後ろを見ながら聞いた。


「宮廷ではこういうスタイルが普通です」

<侍女>は平板な口調で答えながら、ラドリーンの髪を後ろに流すように整えた。


「動きづらいわね」

「貴婦人は動き回るものではありませんから」


外の世界も、案外つまらないようだ。


<侍女>は一歩下がってラドリーンの全身を確かめた。


「歩く時はここを少し持ち上げて――ええ。そういう感じで」