「それは?」

「幻獣を呼び寄せる言葉だ。それぞれに決まった言葉がある」

「歌じゃないのね」

「いや。本当は歌だ。だが、俺が歌えばこの城に幻獣たちが押し寄せるからな」


ラドリーンは暗闇の中、アスタリスの頬に触れた。


「わたしにも呼び寄せられるかしら?」


「練習すれば、きっと」

アスタリスは顔を横に向け、ラドリーンの手の平に口づけた。

「俺の家もある。なだらかな丘の上で、家の裏には林檎によく似た実のなる木があるんだ。俺と暮らそう、ラドリーン。リナムも一緒に。お前がよければ家族も持とう」


耳元に囁かれたものは、美しい夢のような光景だった。


平凡で、

ささやかで、

お伽話のように可愛らしい夢。


「俺の歌も愛も、全てお前のものだ――他に何がいる?」

「そうね……鰊かしら?」


アスタリスは声を立てて笑った。

その声を聞いて、ラドリーンはなぜか胸が熱くなって涙が込み上げた。