「いつかきっと返します」


そう言った時、足の上に重みがかかった。


ギョッとして下を見ると、大きな黒猫がラドリーンを見上げていた。

よく厨房の炉の前で丸くなっている猫だ。

咎めるような金色の目に向かって、ラドリーンは思い切りしかめっつらをした。


「借りるだけだもの。本当よ」


黒猫は返事するように『ミャア』と鳴いた。


少し後ろめたい気分で、ラドリーンは壁沿いにいくつか並んでいる燭台から蝋燭を間引くように取った。


どうってことない。

どうせ後で<影>達が気付いて、補給するに違いないのだから。


――ミャア


長衣の裾を引っかくようにして、また猫が鳴く。


「何?」

ラドリーンは苛立った声で言った。


――ミャア


猫は、礼拝堂の戸口に向かって歩きだした。


ラドリーンが黙って見ていると、猫は立ち止まって振り返った。