「お加減でも?」


<侍女>の言葉に、ラドリーンは不思議そうな顔をして振り向いた。


「近頃ずっと、ぼんやりとなさっておられます。お加減でも悪いのかと思いまして」


「調子はいいわ」


ラドリーンはぽつんと答えると、また窓の方を向いた。

気がつけば、アスタリスの事ばかり考えている。


彼は、自分の世界へわたしを連れて行こうといている……


この城から出たい気持ちはある。

アスタリスに惹かれているのも確かだ。

けれど目の前に差し出されているのは、どんな所かも知らない魔法に満ちた世界への鍵だ。

どうしてもためらってしまう。


「今夜は荒れそうね」

ラドリーンは独り言のように言った。


「お天気ですか? とても穏やかな日でございますよ」

<侍女>が怪訝そうに聞く。


「水平線に暗い雲が見える。それに海が凪ぎ過ぎている。荒れる前兆よ」


何年間も毎日毎日、海ばかりを見て過ごしてきた。

天候の変化など、すぐに読み取れる。