草と野の花――夏の匂いだ。


羊がいる。

草の間をウサギが跳ね、犬が走って行く。


次の瞬間、ラドリーンはアスタリスの腕に抱き寄せられていた。


「ラドリーン」

彼の声は美しかった。

「俺が来なくてつまらなかったか?」


ラドリーンは否定するように頭を振った。

が、闇に包まれていては見えるはずもない。


ラドリーンの耳に何か暖かいモノが触れた。


「素直に言え」


耳元で囁かれた。

耳に触れているのはアスタリスの唇に違いない。


「俺の歌に焦がれていたと」

唆すような声。

「俺の声を待ち侘びていたと」


「待ってなんかいない」

ラドリーンはもがきながら言った。


「そうか? 俺はお前が恋しかったぞ」


燭台が音を立てて床に転がった。