――そうだよ


それなのに、わたしは彼の好意につけ込んで歌わせていた。報酬もなしで。


――ラドリーン?


「何でもない。ずっと来てたのに、急にどうしたのかなと思っただけ」


ずっと来てくれるものだと勝手に思い込んでいた、とは言えない。


――気にしなくていいよ。バードって気まぐれだから


(猫よりも?)


ラドリーンは指を絡めて、手の平をギュッと合わせた。

アスタリスは、どこか他の場所で歌っているのだろう。


どこかの姫君の前かもしれない。


イライラするなんてどうかしている。ラドリーンは思った。


――そのうちふらっと現れるよ


「そうね」


リナムを迎えには来るだろう。

ラドリーンに会いに来るわけではない。

その事をしっかり肝に命じておかなくては。

今度――今度があればの話だが――アスタリスに会った時には、何事もなかったかのような顔をしよう。