「他人の歌だぞ。俺に聞くな」


アスタリスは弦を押さえた。

余韻が消え、部屋の中は静まり返った。


「眠ったか」
  

ラドリーンは、組んだ手の上に頬を乗せてぐっすりと眠っていた。


「俺は、どうしてこんな事をしているのだろうな」

アスタリスは自嘲ぎみに呟いた。


約束した物語は歌い終わったというのに、毎夜ここに来ては、ラドリーンにせがまれるままに歌っている。


――ラドリーンが綺麗だからだよ

当然だというようにリナムが答えた。


アスタリスは少し考え込んだ。


「これを連れ去ったとして、誰が泣く?」


――バード? ダメだよ


「何故?」


――誰かいるかもしれない。オイラ達が知らないだけで


アスタリスは、鋭い目でリナムを見下ろした。


「いると思うか? もう何年もここにいるのだろう。一人ぼっちで。話し相手もなく」