「誰でもいいだろう。一番強く、賢く、情け深い者が王になればいい」

アスタリスが口を挟んだ。


――それ、それ! オイラが言いたかったの


「だから、ね」

ラドリーンは不満そうに口を尖らせた。

「本物の王子様ってそうでしょう? 強くて賢くて情け深いの。だってそうなるように育てられるのだもの」


「なるほど。血筋ではなく教育が王を作るわけだ。だが、世の中には弱くて愚かで自分勝手な王子など沢山いるぞ」


「わたしの夢を壊さないで。いつか本物の王子様が玉座に座るの。悪い人はみんな追い払われて、間違った事は全て正されて……」

ラドリーンは、夢見るように目を閉じた。

「わたしもここから出られるの」


アスタリスは片手を伸ばしてラドリーンの乱れた髪を撫で、耳の後ろに払ってやった。


「ここから出たいのか?」


ラドリーンは目を閉じたまま頷いた。


「ここから出て、どこへ行けばいいのか分からないけれど」

「家族はいないのだな?」

「いない――ううん、分からないの。ここに来る前には両親と兄がいた気がするけど。小さかったし、誰も教えてくれないから」