スッと手が伸びて、ラドリーンの頬に触れた。

乱暴ではないが、有無を言わせない力で顔を向けさせられる。


「ああ、お前の瞳はまるで夜空のようだな」

囁く声は歌うようで、深く、甘い。


夏空のような瞳に見とれて、ラドリーンは自分がそっと抱き寄せられた事にも気付かなかった――急にその手が離れるまでは。


「痛っ!」


アスタリスがビクッと身を引いて初めて、ラドリーンは自分が会ったばかりの男の腕の中にいる事に気がついた。


「文句でもあるのか? リナム」

アスタリスは引っ掻き傷のついた手を振った。


――バードのバカ! 女ったらし!

リナムが、ラドリーンの肩から顔を出して悪態をついた。


「妖精猫(ケット·シー)ごときが焼き餅か?」


――焼き餅なんかじゃないよ! オイラは、好きな物をあげるからずっとラドリーンのお部屋にいてって言われたんだから。そっちこそ焼き餅やけっ

リナムは背中から肩によじ登って言った。


「それが焼き餅じゃなくて何だ?」

アスタリスは苦笑した。


――うるさい! もう帰ろ、ラドリーン

猫は甘えるようにラドリーンに顔を擦りつけた。