背後から声をかけられ、ラドリーンは悲鳴をあげそうになった。

なんとか堪えて恐る恐る振り向くと、皮の長靴(ちょうか)が目に入った。

そのまま視線を上に上げていくと、灰色のマントを着た男が、面白いものでも見るようにラドリーンを見下ろしていた。

整った顔立ちの若い男だった。

やや吊り上がり気味の目は、引き込まれそうなくらい深い青で、夏の空のようだとラドリーンは思った。


「お前、名は?」


心地好い柔らかな声で問い掛けられ、思わず答えかけた時、黒猫が怒ったように毛を逆立てて男とラドリーンの間に入りこんだ。


「何だ、リナム。文句でもあるのか?」

男は猫の首根っこをつまみ上げて顔を見合わせると、いぶかしげに眉をひそめた。

「お前、変な呪(まじな)いがかかってるな」


――ミャア


「あいにく猫語は分からん」

男は苦笑した。

「来い。呪いを解いてやる」


男は猫を抱いて数歩歩いてから、振り返ってラドリーンを見た。


「何をしている。お前も来い」